第1話

 こんばんは。柄本ふみです。

 

 言われてつらい言葉のひとつに、「君には分からない」があります。会話の相手は辛く苦しい思いをしているのです。どうにか寄り添って、苦しみを軽減させてあげたいとしょっちゅう思います。でも、「君にわたしの気持ちが分かる?」「君には分からないよ」と言われて、撃沈。そんな夜です。

 仕方のないことなのです。確かに私は、他人の気持ちを100%は理解することができません。どれだけ頑張ってみても、私は他者ではなく私として生きているから、分かりません。近いところまで行けても、そこまで。まるっきり同じ喜びや苦しみを一緒に味わうことなど不可能なのです。そんなことはずっと前から分かっているのだから、割り切ればいいだけなのに。割り切れずに、撃沈。そんな夜です。

 これは私だけに当てはまることではありません。他者は、まるっきり私と同じ感情を得ることはできません。近いところまでは来れても、ここまで来ることはできません。当然のことです。だから私は私の気持ちをすべて分かってもらおうなんて傲慢なことは思いません。だって、すごく悲しくなりませんか?「あなたには分かってもらえないよ」って、口に、声に、出しちゃうなんて。

 それにしても、周りの人は私より秀でています。いつもどこかで私は、自分と他者を比べている。たくさん比べて、こんな風になりたいなあって望んでも、どうすればその姿が手に入るのか分からなくて、空中の窒素を手でつかむような感覚になって、視界には地面ばかり映る。さみしい。

 常に何かが足りていない状態なのです。今までそれなりに努力して生きてきたつもりだし、それらの積み重ねを信じていないわけではない。だけど、もっと他にもできることがあったんじゃないか、余力があるんじゃないかっていう気持ちが、頭の中をぐるぐるしています。きっと私には長所がある。短所もある。その短所がどうしようもなく気に入らないだけなのだと思うのです。

 現状維持という言葉は便利です。現在の自分を最上級のレベルに自動的に引き上げてくれる魔法の言葉です。しかし魔法をかけると呪いがかかります。自分をそれ以上のレベルに持ち上げられなくなる呪いです。心の底にはマグマのたまり場のようなところにエネルギーがあって、あとは噴火すれば、自分という大陸を、惑星を、動かすことができるのかもしれません。でも現状維持というレッテルを自分に張り付けるだけで、噴火の可能性は下がり、熱は帯びなくなってしまう。今の私のようです。私は現状維持で満足しているのです。

 そのように割り切って、撃沈。そんな夜です。